同じ言い回しが増えるのは、AIのせいだけではない

ある時期から、社内の提案書の言い回しが、妙に揃ってきたことに気づいた。「〜を実現します」「〜に貢献します」「〜を最大化します」。書いている人は違うのに、同じ語尾、同じ構文、同じ締め。AIを使い始めたせいだろう、と最初は思った。だが、古い提案書を引っ張り出して読むと、AIが来る前から、似た揃い方は起きていた。揃い方の速さが変わっただけで、揃うこと自体は、前からあった。

AIを使うと、同じ言い回しが増える。これは事実だ。だが、なぜ増えるのかを考えると、AIだけの話ではないことが分かる。今日は、言い回しが揃っていく理由を三つに分けて、そのうちAIが担っているのはどこまでかを見ていく。

目次

一つ目の理由——AIは、多数決で書く

AIは、大量の文章を読んで、言葉の続き方の確率を学んでいる。ある語の次に来やすい語、ある場面で使われやすい構文。生成するときは、その確率の高いほうを選びやすい。つまりAIの文章は、読んだ文章の多数決でできている。多くの人が使ってきた言い回しほど、AIは選びやすく、選ばれた言い回しは、また多くの人の文章に入り、次の学習の材料になる。ここに循環がある。揃った表現が、さらに揃う方向へ、自分で自分を強化する。

この性質は、AIの欠陥ではなく、設計そのものだ。多数決で書くからこそ、誰が読んでも通じる文章になる。だが同じ理由で、誰が書いても同じ文章になる。通じやすさと、似やすさは、同じ性質の表と裏だ。

二つ目の理由——人間は、通った型を真似る

提案書の古い束が教えてくれたのは、人間もまた、多数決で書いているということだった。社内で通った提案書の言い回しは、次の提案書に写される。上司に褒められた表現は、部署の共有財産になる。誰も悪気はない。通ったものを真似るのは、組織で生き延びるための合理的な行動だ。AIが来る前から、会社の文章は、通った型に収束していた。

AIは、この人間の癖を速くしただけだ。以前は、通った型が部署に広がるのに数年かかった。いまは、通った型をAIに渡せば、翌日には全員の文章がその型になる。揃う速さが、年単位から日単位に縮んだ。だから、言い回しの均質化をAIのせいにするのは、半分しか正しくない。AIが揃えたのではなく、人間が揃えたがっていたものを、AIが一気に揃えた。

三つ目の理由——評価する側も、同じ型を好む

三つ目が、いちばん根が深い。文章を評価する側——上司、顧客、審査員——もまた、見慣れた型を「読みやすい」と感じる。型どおりの文章は、頭を使わずに読める。型から外れた文章は、読むのに労力が要る。だから評価する側は、無意識に型どおりの文章を通し、型から外れた文章を戻す。書く側はそれを学習し、型に寄せる。評価が型を強化し、型が評価を固める。

そして、評価する側もAIを使い始めた。提案書の一次審査をAIに任せれば、AIは多数決で「良い文章」を選ぶ。その基準は、見慣れた型に合っているかどうかだ。書く側のAIと、読む側のAIが、同じ型を基準に向き合う。この構図が完成すると、言い回しは、人間の誰も望んでいないのに、機械的に揃っていく。

試しに、自社の提案書を十本ほど並べて、語尾と締めの文を数えてみるといい。私がやったときは、「実現します」と「貢献します」が語尾の半分を占め、締めの文の大半が「ご検討のほどよろしくお願いいたします」で終わっていた。書いた人は五人いた。五人の個性は、語尾にも締めにも、ほとんど残っていなかった。数えると、揃いは目に見える。見えれば、揃っていない一文がどこにあるかも分かる。その一文を書いた人に、なぜそう書いたかを聞くと、たいてい現場の具体的な出来事が出てくる。揃わない言葉は、いつも、多数決の外の出来事から来ていた。

揃った言い回しを全部なくす必要はない。通じやすさは、多数決の言葉が持つ本物の価値だ。問題は、文章の全部が多数決でできていることで、そのとき文章は、誰が書いたかを失う。一段落に一文でいい。多数決の外から来た言葉を置く。その一文が、文章に名前を戻す。

揃わない言葉は、どこから来るか

では、言い回しを揃えないためには、どうすればいいか。AIを使わない、は答えにならない。人間だけでも揃っていたからだ。答えは、多数決の外から言葉を持ってくることにある。自分の体験、自分の現場の固有名詞、自分しか見ていない数字。これらは、AIの学習データの多数派には入っていない。だから、AIの文章に混ぜると、そこだけ型から外れる。外れた場所が、その文章を、その人の文章にする。

私はAIで下書きを作る。多数決で書かれた、通じやすい土台として、ありがたく使う。だが、土台の上に、多数決の外から来た言葉を必ず置く。あの揃った提案書の束を読んだとき、唯一印象に残ったのは、型から外れて、書いた人の現場の匂いがする一文だった。言い回しが揃う理由は三つあり、そのうち二つは人間の側にある。だから、揃わない言葉も、人間の側からしか来ない。

アイキャッチ画像はAI生成です。

次の成長に向けて、いま整えるべきことを。

AI、EC、マーケティング、採用、数値管理。
構想だけで終わらせず、実行できる体制へ。

まずは課題を整理してみるところから、スポルアップが実務目線で伴走します。

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この記事を書いた人

法務・財務・内部統制・情報セキュリティの実務を経て、AI時代の企業支援へ。バックオフィスの現場で見てきたことを、そのまま書いています。

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