東京は物価が高い、の中身

地方の会社から東京の会社へ移ったとき、まわりに「東京は物価が高いから大変だ」と何度も言われた。覚悟して出てきた。ところが、スーパーで卵や牛乳を買っても、そこまで驚く値段ではない。財布が本当に軽くなったのは、月末の家賃を払うときだった。「東京は物価が高い」という一言は、正しい。だが、その一言が指しているものは、私が身構えていたものと、少しずれていた。今日は、その「高い」の中身を、数字で開いてみる。

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物価には、県ごとの順位がある

総務省が毎年、消費者物価地域差指数というものを出している。全国平均を100として、各都道府県の物価水準がどのくらいかを指数にしたものだ。2024年の総合で、最も高いのは東京都の104.0。全国より4%高い。次いで神奈川県の103.3。逆に最も安いのは群馬県の96.2で、鹿児島県96.4、宮崎県97.0と続く。東京と群馬の差は、7.8ポイント。ちなみに東京は、2013年から12年連続で全国一位を守っている。

この「12年連続」が、地味に効く。物価の順位は、景気で年ごとに派手に入れ替わるものではない。東京が高く、地方が安いという構図は、私たちが漠然と思っている以上に、動かない土台になっている。だからこそ、この差が何でできているのかを、一度きちんと開いておく値打ちがある。

消費者物価地域差指数(総合・全国=100)2024年全国平均=100東京都104.0神奈川県103.3全国100.0宮崎県97.0鹿児島県96.4群馬県96.2出典:総務省統計局「小売物価統計調査(構造編)2024年結果」(2025年6月公表)。東京は2013年以降12年連続で最高。

この一枚を見せられると、「やはり東京は物価が高い」で話が終わりそうになる。実際、AIに「都道府県の物価ランキングを出して」と頼めば、こういう総合指数の順位が返ってくる。だが、総合指数というのは、食料も、住居も、光熱費も、教育費も、全部ならして一つにまとめた平均値だ。ならされた数字は、中で何が起きているかを隠す。ここで手を止めて、割ってみる。

「高い」の正体は、住居だった

同じ2024年の指数を、東京都について費目別に見る。すると、風景が一変する。住居は127.2。全国平均の3割近く上だ。ところが食料は103.0で、全国よりわずか3%高いだけ。光熱・水道にいたっては、東京は全国平均を下回っている。東京の総合104.0を押し上げているのは、ほぼ住居ひとつだった。卵や牛乳の値段が特別に高いわけではなかった。私がスーパーで驚かず、家賃で青ざめたのは、気のせいではなかったわけだ。

東京都の費目別・地域差指数 ── 高いのは「住居」(全国=100)全国=100住居127.2食料103.0(総合)104.0出典:総務省統計局「小売物価統計調査(構造編)2024年結果」。光熱・水道は全国平均を下回る。

逆から見ると、群馬が安い理由も見えてくる。群馬の低さに最も効いているのは食料だ。地方は、日々の買い物が少しずつ安い。東京は、住む場所が飛び抜けて高い。同じ「物価の地域差」でも、高いほうと安いほうで、効いている費目が違う。総合指数の一列だけを眺めていたら、この非対称は永遠に見えてこない。

住居がこれほど飛び抜けるのには、わけがある。人が集まる場所は、土地に限りがある。同じ広さの部屋を借りるにも、東京では地方の何割増しもの家賃がかかる。持ち家の人にも、その土地の値段は、形を変えてのしかかる。指数の127.2という数字は、東京で暮らす人が、住むという一点にどれだけ多く払っているかを、そのまま映している。食料や日用品は、全国チェーンやネット通販が値段をならしていく。だが土地だけは、動かせない分だけ、地域の差がむき出しになる。物価の地域差の正体は、突き詰めれば、土地の値段の差なのだ。

総合の一列は、結論を急がせる

ここに、AIとデータの付き合い方のヒントがある。総合指数は便利だ。47の県を、たった一列に並べてくれる。並んでいると、それだけで分かった気になる。だがその一列は、判断を急がせる。「東京は物価が高いから、地方に移れば生活は楽になる」——総合指数だけを見れば、そう読める。費目に割ると、話はもっと具体的になる。地方移住で確実に下がるのは、主に住居費だ。食費はそれほど変わらない。子どもの教育に何を求めるかで、話はまた変わる。打つ手は、総合の順位ではなく、費目の内訳から見えてくる。

もう一歩、意地悪に考えてみる。東京の物価が高いのは、主に住居だった。では、その高い住居費を、東京の高い給料はどこまで埋めてくれるのか。総合指数で「東京は4%高い」と丸めてしまうと、この問いは立てられない。住居に27%多く払い、食料はほぼ変わらず、給料はまた別の統計で決まる。手取りから家賃を引いて、はじめて「どこが暮らしやすいか」が見えてくる。総合指数は、その入口までは連れて行ってくれる。だが、答えの部屋の扉は、自分で開けるしかない。

私はAIを毎日使う。この記事の集計も、費目を割る作業も、機械にやらせている。肯定している。だが、AIが最初に差し出してくるのは、たいてい総合の一列だ。滑らかに並んだ順位表は、それ自体が「もう考えなくていい」という合図のように見える。そこで止まらず、「これは何をならした数字か」ともう一段割る。その一手間が、地図を、順位表から判断材料に変える。私が統計を見るとき、総合の数字をまず疑ってかかるのは、そのためだ。ならされた一列は、いつも中身を隠している。

「東京は物価が高い」は、正しい。ただし、その中身は家賃だ。次に物価の地域差を見せられたとき、総合の順位に驚く前に、いちど費目を開いてほしい。何の値段の、どこの差なのか。数字は、割れば割るほど、正直になる。

アイキャッチ画像はAI生成です。

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この記事を書いた人

法務・財務・内部統制・情報セキュリティの実務を経て、AI時代の企業支援へ。バックオフィスの現場で見てきたことを、そのまま書いています。

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