集めているのは、東京だけではない

出張で地方の都市に行くと、駅前が思ったより賑やかで驚くことがある。立派な商業ビルが建ち、行列のできる店があり、若い人も歩いている。ところが、そこから車で二十分も走ると、風景が変わる。閉じたままのシャッター、伸びた草、明かりの消えた家。同じ県の中で、である。「この県は、栄えているんですか。寂れているんですか」。地元の人にそう尋ねて、言葉に詰まらせてしまったことがある。県という単位では、答えられない問いだったのだ。今日は、その感覚を数字で確かめる。

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都道府県で見れば、たしかに東京一極集中だ

総務省が毎年、人がどこからどこへ引っ越したかを集計している。2024年、都道府県の間の移動で、転入が転出を上回った県——人が出るより入るほうが多かった県——は、わずか七つの都府県だけだった。首位は東京都で、7万9千人あまりの転入超過。神奈川、埼玉と続き、東京圏の一都三県を合わせると、13万人を超える人が流れ込んだ。残りの多くの県は、人が出ていく側だ。「東京一極集中」という言葉は、この構図を指している。数字の上でも、間違ってはいない。

ところが市区町村で見ると、主役が変わる

同じデータを、都道府県ではなく市区町村の単位で並べ替えてみる。すると、転入超過のいちばん多い街は、東京の区ではなかった。首位は大阪市で、1万6千人あまり。二位が札幌市、三位が横浜市、四位が福岡市。東京の区がようやく顔を出すのは、五位の中央区だ。上位を占めているのは、地方の中核都市——政令指定都市たちだった。地方は人が出ていく側だと言ったばかりなのに、その地方の大きな街には、人が集まっている。

市区町村の転入超過ランキング 上位5(2024年・人)大阪市16,090札幌市10,830横浜市10,805福岡市8,507東京都中央区8,505出典:総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告 2024年結果」(市区町村間移動)。1位は東京の区ではなく大阪市。

矛盾しているようで、していない。ここに、都道府県という単位が隠していたものがある。

県庁所在地が、県の中から吸い上げている

福岡を例にとる。福岡市ひとつの転入超過は、8千5百人あまり。ところが福岡県ぜんぶで見た、県外との差し引きは、4千2百人にとどまる。市ひとつの増加が、県全体の増加より大きい。からくりはこうだ。福岡市が集めた人の多くは、同じ福岡県内の、他の市や町から移ってきた人なのだ。県庁所在地が、自分の県の中から人を吸い上げている。だから県全体では小さな数字にしかならない。福岡市の外にある福岡県は、差し引きで人を失っている。

福岡市 > 福岡県ぜんぶ ── 1つの市が、県全体より増えている(2024年・転入超過・人)福岡市(1市)8,507福岡県(県ぜんぶ)4,160出典:総務省「住民基本台帳人口移動報告 2024年結果」。福岡市は市区町村間移動、福岡県は都道府県間移動。

これは福岡に限らない。北海道は、県全体では人が出ていく側だ。それでも札幌市だけは、1万人を超える転入超過だ。北海道じゅうから札幌へ人が集まり、その札幌も含めた北海道全体としては、東京へ人を送り出している。「東京一極集中」という大きな一言の内側で、地方でもまた、県庁所在地への小さな一極集中が、同時に進んでいる。出張先で見た、賑やかな駅前と、車で二十分の空き家。あれは、同じ県の中で起きている、この吸い上げの、二つの端だった。

なぜ、こうなるのか。動いているのは、その多くが若い世代だ。進学や就職の節目に、生まれた町を出る。同じ県内であれば、行き先はまず県庁所在地になる。地元の大学、地元の中核市の会社。そこで何年かを過ごすうちに、今度はもっと大きな東京圏へと引かれていく。人は、階段を上るように、小さな町から中くらいの街へ、中くらいの街から東京へと移っていく。県庁所在地は、その階段の、ちょうど踊り場にあたる。周りの町から人を集め、集めたその人を、やがて東京へ送り出す。集めることと、手放すことを、同じ場所が同時にやっている。地方の中核都市が栄えて見えるのは、この踊り場に、いっとき人がとどまっているからだ。

どの解像度で見るかを、決めるのは人間だ

ここに、AIとデータの付き合い方のヒントがある。AIに「日本の人口はどこに集まっているか」と尋ねれば、まず「東京一極集中」と返してくる。それは正しい。だが、その答えは都道府県という粗い網の目で見た景色だ。市区町村まで解像度を上げてくれ、と頼んで初めて、地方の中核都市という、もう一群の磁石が見えてくる。データは、どの粒度で切るかで、まるで違う物語を語る。そして、どの粒度で見るかを決めるのは、機械ではなく、問いを立てる人間のほうだ。

私は人口の集計も、地図を描く下ごしらえも、AIに手伝わせている。肯定して、使っている。だが、機械が最初に返す「東京一極集中」の一行で分かった気になると、その足元で、地方の街どうしが人を奪い合っている現実を、見落とす。県で見れば一つの色に塗られる土地も、町で見れば、集める町と、消えていく町に、はっきり分かれている。地図の色は、解像度が上げるほど、正直になっていく。

「この県は、栄えているのか、寂れているのか」。あの問いに、いまなら答えられる。県では、答えられません、と。町で見てください、と。集める町と、出ていく町が、同じ県の中に隣り合っている。それが答えだ。「地方をまるごと元気にする」と語るのは、たやすい。だが現実には、同じ県の中に、栄える町と消える町の線が引かれている。その線をまたいで、どちらの町を、どんな手で支えるのか。県という大きな主語のままでは、その問いにさえ、たどり着けない。次に「地方創生」という言葉を聞いたら、いちど尋ねてほしい。それは、どの町の話ですか、と。

アイキャッチ画像はAI生成です。

次の成長に向けて、いま整えるべきことを。

AI、EC、マーケティング、採用、数値管理。
構想だけで終わらせず、実行できる体制へ。

まずは課題を整理してみるところから、スポルアップが実務目線で伴走します。

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この記事を書いた人

法務・財務・内部統制・情報セキュリティの実務を経て、AI時代の企業支援へ。バックオフィスの現場で見てきたことを、そのまま書いています。

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