「映画離れ」の、離れた先

私は、映画もたいてい配信で見る。わざわざ映画館まで足を運ぶのは、年に数えるほどだ。新しいものには人より先に飛びつくたちだが、こと映画に関しては、家のソファで十分だと思っている。ところが、去年その数少ない例外として映画館へ行った一回は、アニメだった。思い返せば、まわりも同じだ。話題のアニメか、評判の邦画のときだけ、腰を上げる。ハリウッドの大作のために映画館へ行った記憶が、ずいぶん遠い。今日は、その遠さを、数字で確かめる。

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総額で見れば、たしかに「映画離れ」だ

日本映画製作者連盟が、毎年の映画興行の成績をまとめている。2024年の年間興行収入は、2,069億円。前年の93.5%で、少し縮んだ。観客動員も1億4,444万人で、前年の92.9%。どちらも前年割れだ。この二つの数字だけを見れば、「やっぱり映画離れが進んでいる」と言いたくなる。配信で何でも見られる時代に、人はますます映画館から遠ざかっている——そう読める。だが、この総額を、邦画と洋画に分けてみると、話がまるで変わる。

邦画は歴代最高、洋画は半減

2024年、邦画の興行収入は1,558億円。前年を5%上回り、歴代最高を記録した。市場全体の四分の三が、邦画だ。一方の洋画は511億円。前年の69.8%で、三割以上も落ち込んだ。コロナ禍の前と比べれば、洋画の興収はおよそ半分になっている。同じ一年の、同じ「映画」という言葉の中で、片方は過去最高を更新し、もう片方は総崩れを起こしていた。かつて日本の映画館は、ハリウッド大作の封切りで長い列ができた時代もあった。その洋画が、いまや市場の四分の一にまで縮んでいる。

2024年の映画興行収入 ── 邦画と洋画(億円)邦画1,558前年比105.1%(歴代最高)洋画511前年比69.8%(コロナ前から半減)出典:日本映画製作者連盟「2024年映画概況」。合計2,069億円(前年比93.5%)、うち邦画の構成比75.3%。

総額が前年割れだったのは、映画全体が一様に沈んだからではない。記録を作った邦画と、崩れ落ちた洋画を、一本の数字が足し合わせて均した結果だ。前年比だけを並べると、二つが正反対を向いているのが、はっきり見える。

前年比で見ると、逆を向いている(2024年・興収の前年比)前年と同じ=100%邦画105.1%全体93.5%洋画69.8%出典:日本映画製作者連盟「2024年映画概況」。100%=前年と同水準。邦画は伸び、洋画は3割超減った。

離れたのは、観客ではなく「洋画から」だった

では、何が起きたのか。配信という波が、いちばん深く洗ったのは、ハリウッドの大作だった。少し待てば、話題の洋画は配信で、家の大画面で見られる。字幕を追い、二時間座り続けるために、わざわざ劇場へ足を運ぶ理由が、薄れていった。私が映画を配信で済ませるようになった感覚は、まさにこの洋画離れそのものだった。ところが、アニメと邦画は違った。人気シリーズの劇場版や、話題のIP作品は、公開初日に、大きなスクリーンで、大勢と一緒に見たい。配信を待つ気になれない。アニメが興収に占める比率は、この年、過去最高になった。劇場に残ったのは、「今、ここで、みんなと」という価値をまとった作品だった。

洋画の退潮には、作り手側の事情もある。ハリウッドは近年、自前の配信サービスに力を入れ、話題作を劇場と配信で、ごく短い間隔で出すようになった。映画館で待つ理由を、供給する側が自ら薄めた面がある。加えて、続編やリメイクが続き、目新しさが乏しいという声も根強い。一方で日本のアニメは、この数年で世界的な存在になった。国内のファンにとって、公開初日の劇場は、ネタバレを避け、同じ熱を分かち合うための、譲れない場所になっている。同じ「映画を観る」でも、家で足りる映画と、その場に居合わせたい映画に、はっきり分かれてきた。

ここには、一つの原理が働いている。複製できるもの——配信で待てるもの——は、家のほうへ流れていく。複製できない一回性を持つものだけが、人を現場に呼び続ける。映画館という場所に残ったのが、洋画ではなくアニメと邦画だったというのは、日本の観客が「何を、わざわざ観に行くか」を、静かに選び直した結果だ。

「映画離れ」と言う前に

ここに、データの見方のヒントがある。「映画はもうだめだ」という総括は、粗すぎる。離れたのは観客そのものではなく、観客の足が「洋画から」遠のいたのだ。総額の一行で「前年割れ=不調」と片づけてしまうと、邦画の歴代最高も、洋画の総崩れも、どちらも視界から消える。まったく逆を向いた二つの出来事が、平らにならされてしまう。AIに「日本の映画市場はどうか」と尋ねても、まず返ってくるのは総額の増減だ。邦画と洋画に割って、と一段頼んで、ようやくこの逆行が姿を現す。配信派の私でも、機械が最初に差し出す総額の一行を、そのまま結論にはしない。「映画は斜陽産業だ」という一言で片づければ、この国のアニメと邦画という、世界にも届きうるいちばん元気な部分まで、まとめて見捨てることになる。数字を粗く読むことは、時に、伸びている芽を踏むことでもある。

「映画離れ」という言葉を、次に聞いたら、いちど尋ねてほしい。それは、何の映画の話ですか、と。邦画は歴代最高で、洋画は半分になった。同じ「映画」の中で、正反対のことが同時に起きている。次にあなたが映画館の椅子に座るとき、その一枚のチケットを、なぜ配信ではなく劇場で買ったのか——その理由の中に、この数字の答えが、たしかに入っている。

アイキャッチ画像はAI生成です。

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この記事を書いた人

法務・財務・内部統制・情報セキュリティの実務を経て、AI時代の企業支援へ。バックオフィスの現場で見てきたことを、そのまま書いています。

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